
Kawasaki
VERSYS 1100 SE
2025年モデル
総排気量:1098cc
エンジン形式:水冷4ストロークDOHC4バルブ並列4気筒
シート高:820mm
車両重量:260kg
発売日:2025年4月12日(土)
税込価格:209万円
※撮影車両はケース類やフォグランプなどアクセサリーパーツを装着しています。
スクリーンに雨粒が当たった。
天気予報で見ていたよりもだいぶ早い。三連休の初日、首都高から外環を経て、関越道にスイッチしたとたん、渋滞が始まる。この旅は、雨も渋滞も想定していたよりきつくなりそうだ──。
渋滞と雨
自宅を出たのは、朝6時過ぎ。もっと早く出るつもりだったが、眠気に勝てず、結局、観光や帰省目的で早起きした多くのドライバーたちと同じ時間帯に動き出すことになった。
首都高に乗った瞬間から、乗用車が多く、みなが「一刻も早く都心を抜けたい」と考えていることが肌で分かる。週末のピリピリした感覚は、平日の通勤ラッシュよりも警戒が必要だ。
そして関越道に入ると、渋滞に引っかかり、雨が降りだしてきた。

小雨に打たれながら小一時間ダラダラと渋滞のなかを走り、三芳PAに逃げ込んだ。
VERSYS 1100 SEのスクリーンはまさに盾(シールド)と感じるほどに心強い。ハンドガード、前方のカウルの効果もあり、恐れていたほど衣服は濡れていない。
アクセサリーパーツのケース類をフル装備しているため、荷物が濡れる心配をしなくてもいいのもありがたい。

▲関越道・三芳PAにて。
ジャケットとジーンズをタオルでサッと拭いて、合羽を着こむ。ここからは雨の旅、天気予報は終日に渡って傘マークを示している。普段ならため息が出るところだが「何か大丈夫かも」という楽観した気持ちになった。今日の相棒はVERSYSなのだ。
渋滞を抜けると雨脚はますます強くなってきた。今日は群馬県と長野県にまたがる絶景ワインディングロードである志賀草津道路を走るつもりで、家を出た。周囲に山々が見えだしてきたけれど、稜線は濃い雲に覆われ、高さは分からない。通行止めになっていないことを祈るばかり。

霧の万座ハイウェー
スローペースの巡航で、伊香保インターチェンジを下りるともう10時前だった。
気温は15℃、秋物の装いに合羽を重ね着したいまの状態がちょうどいい。グローブは夏にも使っていたものだが、ハンドガードとグリップヒーターのおかげで、ハンドルを握っている分には冷たくならない。

VERSYS 1100 SEは低速で走り続けていると、エンジン熱により脚が暖かくなった。ここから標高がどんどん高くなる。夏は苦しむかもしれないが、今日は寒さが心配なので頼もしく感じた。
志賀草津道路は何度訪れても遠く感じる。「VERSYS 1100 SEならあっという間なんじゃないか」と期待していたが、雨と渋滞で、それも適わなかった。そしてやはり高速を下りてからもそこそこに距離がある。南からエントリーするには、現在は通行止め区間もあり、長野原から有料道路の万座ハイウェーを経由する一択となる。
万座ハイウェーはそれほど展望は開けないが、本来なら走っていて楽しい道だ。しかし、料金所のゲートを前にして怖気づいた。本格的に山に入り、雨は霧へと変わった。

前を行くクルマの車体色がホワイトなのがやっかいだ。ほんの少し離れると霧と同化する。けれど前方にクルマがいてくれた方が、道の曲がり方が把握できて走りやすい。
このVERSYS 1100 SEには、コーナリングライトが標準装備され、アクセサリーパーツのフォグランプまで備わっている。まさにいまが活躍するとき、足元がくっきりと照らされるのは非常にありがたい。

ライディングモードは「ROAD」から「RAIN」に切り替えていた。穏やかなスロットルレスポンスになり、トラクションコントロールの介入度は高くなる。多少、開けすぎてしまっても車体が飛び出さずに済むので安心感がある。

特筆すべきは足まわりのよさ。海外ではVERSYS 1100シリーズは、スタンダード、S、SEの3グレード展開されている地域もあるが、日本では最上級モデルの『SE』のみ販売中だ。『SE』は、スカイフックテクノロジーを搭載したカワサキエレクトロニックコントロールサスペンション(KECS)を搭載している。これが非常にすばらしい。
路面のわずかな凹凸、ひび割れ、補修跡などに臆することなく走れてしまう。履いているタイヤ、ブリヂストン「BATTLAX SPORT TOURING T31」の感触もいい。路面の状態を気にすることなく、それでいて、いまどういう路面を走っているのかが手にとるように分かる。
おかげで、ゆく先の道の曲がり方、前を走るクルマの挙動、野生動物が現れる可能性など、そのほか注意しなければならないことに神経をさける。

緊張感を持ちながら真っ白なワインディングを進んでいくと、硫黄の匂いが鼻を突いた。
万座温泉のエリアに入ったのだ。霧がなければ、視覚で気づいたはずで、いつも写真を撮るダイナミックな景勝地「万座空吹」は何も見えない。間もなく道は志賀草津道路に変わる。
志賀草津道路をゆく
三連休の初日ということで、晴天だったらライダーが引っ切りなしに行き交っていただろう。今日すれちがったのはまだ2台、それでもその2台は峠を越えて来たはず。道が封鎖されていないということが分かっただけ嬉しい。

万座温泉エリアを抜けると、道は尾根伝いになる。風が強くなってきた。依然として濃い霧に覆われ、色彩は乏しい。
中央分水嶺の石碑や避難小屋が見え、絶景スポットのひとつ「山田峠」を通過したことが分かった。快晴なら、空へと続くような伸びやかな一直線なのだが、こうも天候で印象が変わるとは。

▲志賀草津道路・山田峠付近。今日の雨も道の東側へと流れ落ちれば、太平洋へ。西側に流れれば、日本海へと向かうことになる。雨の日に立つことで、分水嶺は運命の分かれ道なのだとリアルに感じた。

▲志賀草津道路・山田峠付近。今日の雨も道の東側へと流れ落ちれば、太平洋へ。西側に流れれば、日本海へと向かうことになる。雨の日に立つことで、分水嶺は運命の分かれ道なのだとリアルに感じた。

▲志賀草津道路・山田峠付近。今日の雨も道の東側へと流れ落ちれば、太平洋へ。西側に流れれば、日本海へと向かうことになる。雨の日に立つことで、分水嶺は運命の分かれ道なのだとリアルに感じた。
ほどなく「日本国道最高地点」に着いた。
ここも好天なら石碑の前で写真を撮ることもできないほど賑わっていたはず。濃霧によって道から石碑の文字はほとんど見えない。気がつかれなければ、ただの地味な狭い駐車場だ。震える手でトップケースを開けてカメラを取り出し、独占状態の写真を撮った。


そこからすぐに群馬県と長野県の県境である「渋峠」にたどりつく。
「峠の反対側は晴れていてくれ」と少し期待していたのだが、甘かった。気温は9℃、風も強い。寒い。VERSYSから降りると、グリップヒーターを握れない分、余計に寒く感じる。




時刻は正午過ぎ、レストハウスでランチを食べて休憩したいという思いもあったが、びしょ濡れの合羽を脱ぎ、それをどうにかして店内に入るのは億劫すぎる。
それにたぶんここで待機しても状況は好転しない。いまは早急に何ら面白みのないこの山岳道路を下るべきだ。


志賀草津道路のハイライトともいえる渋峠・横手山区間もおそろしく味気ない。
この道は例年、4~5月に開通し11月に冬季閉鎖となる。わずか半年間だけ走ることができる日本屈指の絶景ロード。開通直後は雪の回廊を、夏は生き生きとした若草を、秋は紅葉をと、季節ごとの魅力を持つ。すべては晴れていればのこと。
横手山のつづら折りを下ると、遠くの空に雲の切れ間が見えた。これはもしかすると、と期待がふくらんだ。そして、それは思った以上に早かった。
霧がとたんに晴れた。
森が輝いている。

黄色を中心に緑、黄緑、赤、橙……モノクロームだった景色は、信じられないほど鮮やかな世界へと変わった。ありのままを絵具で描いたら、やりすぎだと感じられそうなほど彩度が高い。
意表を突かれた。つい最近までTシャツ短パンで過ごしていたから、紅葉はまだ少し先だと思っていた。標高2000m付近はしっかりと秋真っ盛り。タイムトリップしたかのような不思議な気分だ。
霧が晴れれば、雨も収まる。ツーリングではこんな逆転勝利がひとしお嬉しい。だからもっと走りたくなる。

▲木戸池・標高1640m。こちらは見頃の一歩手前か、やや色が浅い。湖畔に車両をおいて写真が撮れる貴重なスポット。

▲木戸池・標高1640m。こちらは見頃の一歩手前か、やや色が浅い。湖畔に車両をおいて写真が撮れる貴重なスポット。
霧はときどき現れ、雨も降ったりやんだり、合羽は脱げないもののずいぶんと好転してきた。向かう方面には、遠く青空が見え隠れしている。

感情にふたをして修行のような気持ちで走り続けていたが、紅葉を堪能し、山を降りて気温も上がると、さらなる欲も出てくる。食欲の秋!






