道の駅 野沢温泉の絶品定食

国道117号線沿い、長野県野沢温泉村にある「道の駅 野沢温泉」に入った。15時半を過ぎている。祈りながら食堂をのぞくと営業していた。
注文したのは「しめじの親子丼定食」(1000円)。地のものを活かしていそうなメニューを何気なく選んだのだが、これが絶品だった。


鶏肉は炭火焼きのような風味があって、手間暇かかっていることが分かる。熱々なのも、量も適度に多いのも嬉しい。
そして、ご飯と野沢菜漬けが食べ放題! 新米の甘味が例年よりも身に沁みる。本場の野沢菜漬けはシャキシャキしていて、塩加減も絶妙で美味い。大盛り2杯に普通盛り1杯いただいた。

幸せな気持ちで満たされ、再び走りだす。せっかく晴れ間が見え始めたのに、もう日が傾き始めている。
宿は新潟県の苗場スキー場の近くに取った。野沢温泉からは約70km一般道を走ることになる。志賀草津道路を走りたいがために、ぐるりと周る妙なルートになったが、真っ暗になる前にはたどりつけると踏んでいた。
VERSYSでの一般道走行

日がずいぶん短くなったなあ、と平凡な感想を抱く。国道117号線は、ペースよく走れて気持ちいい。やがて道は国道353号線に移った。なおも大きな街に入ることはなく、流れるままに道をゆく。
今日の行程では、VERSYS 1100 SEが持つ、誰もが想像するような表のポテンシャルは発揮できていないだろう。距離にしてみれば、たかだか300km程度しか走っていない。でもVERSYS 1100 SEでよかったと心底思っている。

スカイフックテクノロジーを搭載したサスペンションはふわりと優しく、ストローク量もあってすこぶる乗り心地がいい。アップライトなポジションもラクだし、スクリーンやハンドガードなど身体を風雨から守ってくれる装備も充実している。
エンジンの回転数はずっと3000~4000rpm程度。とくに3000rpmのまろやかさが気持ちいい。高速道路で80km/hなら6速、70km/hなら5速。一般道で60km/hなら4速、50km/hなら3速がちょうど3000rpm程度となる。
VERSYS 1100 SEは従来モデルの『1000』から排気量を拡大し、最高出力も大幅に高め、2025年4月に販売開始された。排気量アップの狙いは、最高出力を高めること以上に低回転域からトルク感を上げ、快適性を向上させることだったようだ。まさにそれを感じる一日となった。

最高出力135PS(99kW)は、9000rpmで発生するが、1速でもいったい何キロ出るのかといった具合に、そこまで回せない。それよりもこの低回転域にある余裕と、まろやかさが快感だ。
初めて跨って走り出した直後には「象みたいだな」と思った。
人ひとり乗せて荷物を満載にしても、まるで意に介することなく、パワフルに走ってくれる。そんな頼もしさは300km走ったいま、さらに深まっている。

国道353号線を走っていると、雪崩対策のトンネル・スノーシェッドが増えてきて、豪雪地帯に入ったということが分かる。スキー場がひしめく、湯沢町・苗場も近づいている。
夜の魚沼スカイライン
「魚沼スカイライン」入口の看板を通り過ぎた。さらにスノーシェッドを潜りながら、進む。
頭の中で葛藤が始まる。どうしようか。戻るべきか。真っ暗になりつつあるこの時間から慣れていない峠道に向かう奴がいるか。いや、まだ走りたいな。そうこうしているうちに数キロ進む。……やっぱり走りたい。
5kmほど来た道を戻り、魚沼スカイラインに入ると、想像以上に暗かった。フォグランプを再び灯して、夜道を慎重に進んだ。

対向車は現れないが、いつ来ても慌てないように気を引き締める。
最近は野生動物絡みの事故が各地で増えているともよく聞く。もしかしたらトレッキングしている人が歩いているかもしれないし、サイクリストが勢いよく下ってくるかもしれない。雨が降ったことでブラインドコーナーの先には巨大な水たまりがあるかも……。あらゆることを想定しつつ、リーンアウトを多用してコーナーの先を覗くように、安全マージンを取れるだけ取って進む。

魚沼展望台に着いた。
VERSYSから降りて、景色を見に行く。
米どころとして知られる南魚沼の町灯り、その上を雲海というのか盆地霧と呼ぶのが正しいのか、ちぎった手芸綿のような雲がふわりと流れる。夕から夜へと変わる玄妙なブルーモーメント、雨上がりの匂いを伴った秋風が吹く。
これが、VERSYS 1100 SEだからこそ見られた景色だ。

文・写真:西野鉄兵




