
Kawasaki
MEGURO K3
2025年モデル
総排気量:773cc
エンジン形式:空冷4ストロークSOHC4バルブ並列2気筒
シート高:790mm
車両重量:227kg
発売日:2024年9月1日(日)
税込価格:140万8000円
中央自動車道で信州へ
まるで座禅を組んで瞑想しているかのようだ──。
MEGURO K3で中央自動車道をたんたんと走る。時速80kmで流れる景色は、しだいに空が広くなり、標高の高い山々が近づいてくる。
幅広のアップハンドルはグリップが上体に近い位置にある。そのため手元に体重はかからず、肘はゆったりと曲がり、肩の力も抜けている。

ステップは自然と脚を下ろした位置にある。膝の曲がり具合もちょうどいい。体重がかかっているのは臀部のみとなるが、上質なクッション性とほどよい反発力を持つシートのおかげで何も気にならない。
身体の力が抜けきっている。そんな状態で思い出したのが以前お寺で体験した座禅だ。
運転中のため当然のことながら目は開け、つねに周囲の状況に気を配っているのだが、ストレスはなく、心は穏やかになっていく。
前を行くクルマのペースが多少遅くても気にならない。抜こうと思えば抜ける。だけどMEGURO K3は、気持ちをはやらせない。「まあ、いいか」と交通の流れに身をゆだねながら進む。

▲中央自動車道・八ヶ岳PAにて。泊まりがけのツーリングなのでシートバッグを積んでいった。
朝5時前に都内を出発し、8時前には八ヶ岳PA、9時前には諏訪湖SAに着いた。気温はまだ30℃に達していないだろう。出発が早かったことから夏休みの渋滞も避けられた。
ちょっと重いかな、と思ったものの南信州の名物であるソースカツ丼を諏訪湖SAで食べる。大きめの丼にご飯がたっぷり、千切りキャベツが薄く敷かれ、その上に立派なとんかつ、そして甘みのあるソースがたっぷりかかっている。美味い。普段食べている中濃ソースのとんかつとは明らかにちがう。それが旅先では嬉しい。

南アルプスを迂回して東京・名古屋を結ぶ中央道は、岡谷ジャンクションでカクンと南西へ折れる。北の長野道へ行くときも、そのまま中央道を走るときも岡谷ジャンクションは、「遠くへ来たな」という気持ちにさせてくれる。

伊那ICで中央道を下りて、一般道に入った。信州ならではの青々とした景色が眩しい。蝉の声が響き、空気は軽く、草と土の香りが鼻をくすぐる。
中山道の宿場町・木曽福島





まず向かったのは一度来てみたかった福島宿。「木曽福島」という名称は全国的にも有名だろう。東京日本橋を起点に京都三条大橋まで続く中山道六十九次で、37番目の宿場町にあたる。
このあたりでは、妻籠宿や馬籠宿が観光地としてとくに有名な気がするが、福島宿も味わい深く、当時の面影を感じさせる雰囲気に満ちていた。

思いのほかに観光客は少なく、ちょっとしたタイムスリップ感覚で、少し不思議な感じ。標高は800m弱、日差しの厳しさは感じるものの日陰は涼しい。ひと休みするにはぴったりのスポットだった。

MEGURO K3は溶け込むように、この風景に馴染んだ。オーナーになったら懐かしさのある日本ならではの場所へ、いろいろ出かけてみるのも楽しそうだ。
ゲレンデを縫う御岳スカイライン
福島宿をあとにして、国道19号線を経由し県道へと移る。山間をゆるやかにゆく何気ない道が心地いい。写真を撮っても他者へ共感してもらうことは難しい、どこにでもありそうな田舎道。走りながら眺めるそんな自分だけの風景が愛おしい。
御嶽山の麓、大滝村に入った。道はじわじわと上り坂になる。長野県製薬が掲げる「御岳百草丸」の連なるノボリを過ぎると、本格的なワインディングロードに変わる。初めて来たときは、「よくお世話になっている百草丸はここで作られていたのか」と感動したものだ。

峠道の途中にある宿泊予定のホテルに荷物をおかせてもらい、身軽になった。ワインディングはできることなら空荷で楽しみたい。すぐに出発する。
高い木々の葉が峠道に影をつくる。標高が上がるにつれて、木漏れ日が影の面積を上まわり、頭上には青空も見えてくる。コーナーはしだいにタイトになって、標高はますます上がる。
そんな道をMEGURO K3でいつもとは少しちがう気分で上り続ける。普段はワインディングロードに入れば「よし、走るぞ」と、心のスイッチを切り替える。MEGURO K3は、高速道路でもそうだったが、峠に入っても「速く走ろう」という気をいい意味で起こさせない。

安全マージンをしっかりと確保しながら、景色や匂い、空気感も味わいつつ、気持ちよく走りたい。1速はコントロールがシビアになるので、2速・3速を使って、いつもより、やや大回り気味に旋回する。これがすこぶる心地いい。
メッシュジャケットで受ける走行風がだんだんと冷たくなってきた。暑すぎた夏、これ求めていたんだ。メッシュグローブをつけていながら、グリップヒーターのスイッチを入れて贅沢な気分に浸る。道のガードレールがなくなり、景色が開けた。ここが御岳スカイラインのハイライトだ。

冬場は雪に埋まる。その際に道をゆくのは、ライダーやドライバーではなく、スキーヤーとスノーボーダーたち。ここは御嶽スキー場のゲレンデの一部である。そのため障害物となるガードレールが設置されていない。
冬の白銀世界を想像しながら、MEGURO K3の鼓動を味わう。秋口まではライダーのためのような道。そして今日は私とMEGURO K3のための道。まるでサーキットのように見える、ワインディングを日が暮れるまで堪能した。心はどこまでも穏やかだ。
文:西野鉄兵/写真:Kawasaki Good Times 編集部

▲快晴となった翌朝。独立峰・御嶽山の山頂までくっきりと拝むことができた。