免許を取ったのに、まだ走り出せない

免許証を受け取った帰り道。想像していた以上にうれしかった。
今の自分は、法律上いつでもバイクに乗れるようになったが、状況としては以前と変わらない。

そう。私のガレージにはバイクがない。

当然ながら免許だけではツーリングには行けない。
ふとスマートフォンでバイク情報を検索し始める。すると、そこには膨大な数の車種が並んでいた。

「何が違うんだろう」
「初心者にはどれがいいんだろう」
「そもそも自分は何がしたいんだろう」

免許取得までの目標は明確だったが、今度は正解のない選択が始まる。

画像: 免許を取ったのに、まだ走り出せない

バイク選びは「好き」から始まっていた

免許を取ってからというもの、私は毎晩のようにスマートフォンを眺めていた。
気になる車種を見つけてはレビュー動画を開き、関連動画へ飛ぶ。
動画が終わる頃には別の車種が気になり、気づけば日付が変わっている。

「結局、何を買えばいいんだ……」

ベッドに寝転びながらため息をつく。

排気量…
車重…
燃費…
維持費…

調べれば調べるほど比較する項目が増えていく。まるで正解のある問題を解こうとしているようだった。
しかし答えは見つからない。

翌週、私は近くのバイクショップを訪れていた。
ガラス張りのショールームには何台ものバイクが並んでいる。
磨き上げられたタンクが照明を反射し、どの車両もどこか誇らしげに見えた。

「いらっしゃいませ!なにかお探しですか?」

スタッフに声を掛けられ、私は少し照れながらうなずいた。

「はい。免許を取ったばかりで」

「そうでしたか!何か候補はあります?」

そう聞かれたものの、自分でも分からなかった。正確には、候補がありすぎた。
だから曖昧に笑うしかない。

スタッフは、そんな私を見て

「みんな最初はそうですよ」

そう言うと、一台のバイクの横で立ち止まった。
「排気量とか維持費とか、気になることはたくさんあると思います。ですが…」
スタッフはピカピカに拭き上げられたバイクに目をやりこう言った。
「結局は好きになれるかどうかなんです。」

私は思わず聞き返した。
「好き、ですか?」
「ええ。休みの日に理由もなく眺めたくなるとか、遠回りしてでも乗りたくなるとか。そういうものなんです。」

そのときは、正直よく分からなかった。
バイクを買うのだから、もっと合理的な理由で決めるものだと思っていたからだ。

しかし、その考えは少しずつ変わっていくことになる。

画像: バイク選びは「好き」から始まっていた

ショップを巡るたびに見えてきたもの

それから私は休みのたびにいろいろなメーカーのショップへ通った。

最初はどのバイクも同じように見えていた。ところが不思議なもので、見慣れてくると違いが分かるようになる。

タンクの膨らみ方
シートの高さ
ハンドルの位置
フレームの造形

同じ二輪車なのに、一台として同じものはない。
気になる車両を見つけると、その周りを何周も歩いてしまう。

正面から見る。少し離れて横から見る。しゃがんでエンジンを見る。自分でも笑ってしまうほど真剣だった。

ある日、スタッフに聞かれた。

「どこか行きたいと思っているところはあるんですか?」

私は答えられなかった。どんなところへ行きたいのだろう。
海だろうか。山だろうか。キャンプだろうか。

その日は帰りの電車の中でも、ずっとそのことを考えていた。
窓の外を流れる景色を見ながら、ふと気づく。

私はバイクを探しているのではない。バイクに乗って過ごす未来を想像しているのだ。

画像: ショップを巡るたびに見えてきたもの

跨った瞬間に変わる景色

何軒目かのショップだった。
以前から気になっていたモデルを見つける。

写真では何度も見た。動画も見た。レビューも読んだ。
なのに、実車を目の前にすると緊張した。

「よかったら跨ってみます?」

スタッフの言葉にうなずく。
少しだけ深呼吸をしてシートに腰を下ろした。
ハンドルを握る。
両足を地面につける。
視線を前へ向ける。ただそれだけだった。
だが、それまで画面越しに見ていたバイクとはまったく違っていた。

「思ったより大きい。」
いや、大きいというより存在感がある。
身体を預けた瞬間に、このバイクの世界へ入り込んだような感覚だった。

「いかがですか?」
「不思議な感覚ですね…」

思わず笑ってしまう。

「見るのと乗るのじゃ全然違います」

スタッフも笑っていた。

その日は、一旦見積だけお願いして帰路についたが、帰り道はバイクに跨った感覚がずっと残っていた。

画像: 跨った瞬間に変わる景色

相棒との出会い

そして、その日は突然訪れた。

何度も足を運んだショップ。いつものように展示車の間を歩いていた。

焦りはなかった。むしろ少し諦めていた。
今日も決まらないだろう。そう思っていた。

だからだったのかもしれない。以前跨った一台の前で、ふと立ち止まる。

自然と近づく。タンクを眺める。シートに触れる。車体の周囲をゆっくり歩く。

その様子を見ていたスタッフが声を掛けた。

「気になります?」

私は少し笑った。

「少し気になってて…」

「じゃあ跨ってみましょうか」

以前にも跨がらせてもらったのに少し申し訳ないという気持ちを抱きながらシートに腰を下ろす。
そしてハンドルを握り顔を上げる。

その瞬間だった。

まだ走ったこともないのに、エンジン音すら聞いていないのに、海沿いの道を走る風景が見えた。ワインディングを駆け抜ける景色が見えた。旅先の知らない町が見えた。
まるでずっと前から、このバイクと走っていたかのように。

画像: 相棒との出会い

「似合いますね」

スタッフの声で我に返る。
私は少し照れながら笑った。そしてもう一度タンクに手を置く。

理由なんてなかった。理屈も説明もできない。
ただ一つだけ、はっきり分かった。

これに乗りたい。

…気がついたときには契約書に判を押していた。

第四話「納車、そして初めてのツーリングへ」近日公開予定!

まとめ:Kawasaki Good Times Journal編集部

※本記事に使用しているイラストはAI生成にて作成しております。
 実際に販売されているモデルとは一切関係ありません。

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