角田准教授のご研究について
はじめに、筑波大学 体育系 准教授 角田憲治さんのご研究内容と、高齢者の「運動」と「日々の活動量」にまつわる意外な関係について伺っていきます。

▲筑波大学 体育系 准教授 角田憲治さん(右)、カワサキモータース株式会社 汎用エンジンディビジョン 企画業務部 営業業務課(開発当時 企画本部 事業企画部) 課長 今井雄一郎さん(左)。
角田 学生の時から高齢者の体力測定や身体活動について研究してきました。運動は体力の維持や要介護リスク、寿命に影響があります。しかし、それをわかっていても、なかなか動かない人がいるのは何故だろうという研究です。
全世代で一番運動しているのは高齢者なのです。若者よりも圧倒的に高齢者の運動量が多いのです。ただ起きている間の活動量を把握できる歩数計を高齢者につけると、歩数はとても少ないのです。というのも、運動する以外は動かないからです。
今日は〇〇教室で運動したから、ウォーキングはやめてバスに乗ろうとか、買い物に行かなくてもいいとか、代償行動が出てくるのです。結局、運動習慣を身につける一方、それ以外は動かなくなるという問題が出てきます。
この他、定年退職されてから家にこもりがちになり、移動性の活動量が現役のころと比べてうんと減る人も多いです。国民健康栄養調査のデータでも、高齢者が一番運動している一方で歩数は少ないことがわかっています。これは外国でも同じ報告がされていて、運動以外の活動量もキープしてあげないと、どんどん弱っていくので、それを防ぐために歩行と自転車にフォーカスしてきました。
歩行量を増やすため、アクティブトラベル(AT)の研究が盛んなのはアメリカ、イギリス、オーストラリアですが、これらの国では、あまり自転車に乗りません。日本では高齢者が自転車に乗るのは普通ですが、韓国の人も自転車にあまり乗りません。
自転車に乗ろうと思えば乗れるスキルを持った国民性というのは面白いと思って、その健康への貢献みたいなことを研究できれば楽しいと思い、自転車についても研究することにしました。

また、ちょうどそのころ、街づくりに関わっておられる都市工学の先生方から問い合わせいただいたことがきっかけで、高齢者がどれくらいだったら徒歩や自転車で行こうと思うのかについて調べました。そうすると大体1kmを歩こうという人が多かったのですが、中には500mや300mしか歩きたくないという人もおられました。そういう人は要介護や死亡のリスクが高いのです。自転車についても同様に調査したところ、2kmまで行こうと思う人が多いことがわかりました。
高齢者が痛みを抱えやすい膝関節への負担が軽いという利点があり、さらに食料品などの日々の買い物の運搬も徒歩に比べて容易である点が自転車の魅力です。1kmではなく2kmだと移動距離が倍に伸びますので、そこまで行けるのだったら、ぜひ自転車で行動範囲を広げていただきたいですし、電動ではもっと行けるはずです。
私たちが現在進めている調査から、利用時間で言うと、1日当たり自転車だと20分、電動アシスト自転車だと40分利用されており、その差は20分あることがわかっております。また、電動アシスト自転車の利用者は平均年齢が84歳、最高齢が90歳の女性の方で、体力も弱い方が利用されておられました。こうしたデータは、体力が低下している高齢な方でも利用可能な移動手段であることを示しています。
加えて、電動アシスト自転車に乗っている人のほとんどは自動車の運転をしていないことがわかっています。このことは生活を支える移動手段として、自動車の代わりに電動アシスト自転車が利用されていることを意味しています。
つくば市では、電動アシスト自転車に補助を出しています。運転免許証を返納すると、さらにボーナスが上乗せされますので、それで生活の足を確保されると良いですね。
電動アシスト三輪自転車「noslisu(ノスリス)」ができるまで
カワサキがなぜ自転車、それも三輪の電動アシスト自転車を開発するに至ったのか。開発リーダー・今井雄一郎さんの原体験から始まった「noslisu(ノスリス)」誕生の背景と、開発秘話に迫ります。
角田 カワサキさんはモーターサイクルのイメージが強くて、若者にとっては憧れの存在です。
今井 有難うございます。当カワサキモータース株式会社は川崎重工業グループの中で、モーターサイクルに代表される、いわゆるレジャー製品を作っている会社です。カワサキといえばモーターサイクル、その中でも特に中型・大型の排気量のブランドイメージがあるのですが、今回ご紹介する電動アシスト三輪自転車の開発のきっかけは、ずっとモーターサイクルの車体設計を手がけてきた開発リーダーの原体験に基づいています。
神戸郊外の商業施設に出かけた際に、たまたま外国製の三輪のモーターサイクルが展示されていました。それを取り囲んでご覧になっていた年配の男性方は、運転免許証返納等についての話をしておられました。奥様から、危ないから車に乗らないで、と言われている。しかし車がないと生活が制限されてしまう。そこで車に代わる、こんな安全安心で気軽に乗ることができる乗り物(モビリティ)を探しているという会話を聞いたリーダーが、やはり社会には、こういう需要があるのだということを知り、早速、開発に着手しました。

最初に、前二輪の小型のモーターサイクルの試作車を作りました。モーターサイクルに憧れを持っている人は結構おられます。でも転倒する可能性があり危なそうだから乗っていない、その不安をどのようにして取り除いたらいいのか? 転倒の不安を低減するために、二輪にするのは後輪ではなく、前輪がより適していると考え、前二輪の電動ビークルを作りました。
社内で試乗会を実施し、女性社員にも試乗を勧めたのですが、参加してもらえませんでした。その理由は、見た目がごつくて敬遠されたためでした。そこで、乗ってもらうためには見た目も大事ということから、モーターサイクルを離れ、身近な自転車の見た目、フレームを採用し、現在の機種にほぼ近い形の電動三輪ビークルを完成させました。その後、運転免許を返納された方も乗れる、電動の三輪のモビリティを幅60cm、全長163.5cmという普通自転車の規格内に作り直したのが、今回の前二輪の電動アシスト三輪自転車です。このように変容してきました。
事業化する前に2021年にクラウドファンディングで数量限定の販売を実施しました。電動ビークル50台、電動アシスト三輪自転車50台を即日完売しました。プロジェクトとしては、一般販売は2023年5月です。コロナ禍で自転車に対する需要が世界的にも高まり、見直されるようになり、自転車による健康促進ばかりでなく、安全・安心なパーソナルな移動手段として再認識されたということもありました。
我々も驚きましたが、たくさんのご高齢の方々に関心を持っていただいて、会話の中に、免許を返納して車やモーターサイクルを手放すので、次に乗れるというお話が出てきました。その時にちょうどnoslisuだったらより安心して乗れるのではないか、これだったら家族も安心してくれるよね、ということで注目されました。noslisuは、ご本人が直接購入される他、息子さん夫婦から親御さんにプレゼントされるケースもあるとお聞きしています。

角田 それについては、ボクも思うところがあります。義父によくしてもらっているのですが、最近、心臓が弱ってきて、徒歩で生活圏を移動するのがつらそうです。かといって二輪の電動アシスト自転車だと、義母が転倒の心配をされるので、三輪の電動アシスト自転車だったら安心でしょう。どんな工夫をされましたか。
今井 noslisuに興味を持たれるご高齢の方は、まだ元気で活動的でいたいと思っておられますから、車体の色にも結構気を遣いました。ご高齢の方向きの製品の色は小豆色やアースカラー等の落ち着いたトーンが多いのですが、noslisuの場合、評判が良かったのが黄色や青色でした。
一見、ご高齢の方には好まれないかもと言われそうなカラーですが、若々しくていいというご意見が大半でした。私たちにとっては大きな気づきとなり、会社にとっても手がけて良かったです。


角田 駐輪場では、どのように駐輪すればいいですか。
今井 ご愛用者の女性の方に、後輪をセットすればいいのよ、と教えてもらいました。後ろ向きに駐輪するということです。
角田 なるほど。
今井 前二輪のnoslisuは、後ろも見やすいため、後輪が縁石などに乗り上げにくいという特長があるんですよ。
角田 ボクもチャイルドシートを後ろにつけた自転車に、夕方疲れた状態で乗っていて曲がり角に当たって転倒した経験があります。幸い子どもは乗っていなかったのですが、これ以後、気をつけるようにしています。
今井 noslisuの場合は前ですから見えますし、前が二輪ですから、平行アームが平行四辺形のように形を変えてターンしていくと、常に両輪が地面を接地してつかんでいるという安心感があります。
自転車の良さ
地方自治体との連携で見えてきた交通手段としての課題や、noslisuが提供する「自由な移動」の価値。角田憲治さんと今井雄一郎さんがこれからのパーソナルモビリティの在り方について語り合います。
今井 当社の場合、近畿中心になっていますが、いろんな自治体からお声掛けいただいて、街づくりをどのようにするのかや、今の時代と人口構成によっていかに変容させていくのかが大きな課題となっています。
それを考えたときに、自転車は非常に優秀なんですね。コストが安いので経済的にも取得しやすい上に免許もいりませんし、改めて自転車の良さが見直されている中で、自転車に乗れない人たちがいるという課題を、弊社のnoslisuのような乗り物で解決することができないかということで、神戸市や大阪府下のいろんな自治体からのお声掛けで、一緒に試乗会を実施しました。
街がどう変わってゆくのか、ご高齢の方からどういう風に需要してもらえるのかという調査があったので、それもすごく大きな後押しになりました。

角田 バスでしたら到着時刻やルートが決まっていますし、田舎だったら1日に数本とか本数が少ないうえに、自宅や行きたい場所の近くにバス停がないこともあります。自転車の良さは、自分ごとで完結する点です。自由に行動できます。
今井 そうですね。個人モビリティの良さはまさにそれです。noslisuの由来は、ラテン語のノス・リーベリ・スムス=我々は自由だという言葉を元に作った造語なのです。
またnoslisuはハンドルではなく、本体に荷物かごを固定していますので、荷物を積んでも安定して走行できます。通常のハンドル固定ですと、ハンドルを左右に切る際に荷物の重量に影響を受けます。この特性を生かして、オプションにペットキャリーバッグをご用意しておりますので、大切なペットを入れてハンドルを切っても左右に振られず、快適に移動できます。

角田 試乗して、ギアが7段あったのに驚きました。今後も進化していくのですか。
今井 そうですね。市場にお届けしてからフィードバックを受けて、より良く改良していきます。
角田 もう少し前輪の幅を狭くすることはできませんか。荷物かごを縦置きにして。
今井 ハンドルの幅は60cmで前輪の幅と同じなのです。
角田 ハンドルの幅と一緒というのは大事なアピールポイントですね。電動だと体力が弱い人も乗りやすいから良いですね。
今井 本日はありがとうございました。
談:筑波大学 体育系 准教授 角田憲治氏、カワサキモータース株式会社 汎用エンジンディビジョン 企画業務部 営業業務課(開発当時 企画本部 事業企画部) 課長 今井雄一郎氏/写真:Kawasaki/まとめ:Kawaski Good Times Journal編集部



