Kawasaki
W800
2025年モデル
総排気量：773cc
エンジン形式：空冷4ストロークSOHC4バルブ並列2気筒
シート高：790mm
車両重量：226kg
発売日：2024年9月1日（日）
税込価格：124万3000円
120km/h巡航ができる
まだ見ぬ景色や道を求めて長距離を移動するには、高速道路でできるかぎり目的地まで移動するのがベターでしょう。
W800にはETC2.0車載器が標準装備されています。車載器はキーで簡単に外せるシートの下に備わっていて、出し入れもラクラク。メーターにはETCカードの挿入状態を示すランプも搭載されています。
▲ETC2.0車載器はシート下の後部に標準装備されています。
▲メーターにはETCのインジケーターを完備。緑色は正常に動作する証。
古きよき機構やスタイリングを重んじたW800ですが、現代の公道で最高速エリアとなる高速道路の120km/h区間も交通の流れに合わせて、問題なく巡航できる性能をもっています。
体重75kgの私が試したところ、トップギアの5速で80km/hだと約2900rpm、90km/hだと約3200rpm、100km/hだと約3500rpm、110km/hだと約4000rpm、120km/hだと約4300rpm。最高出力は6500rpmで発生し、レッドゾーンは7000rpmからのため、エンジンスペック的にも余裕は充分あります。
合流や追い抜きで加速力不足を感じることもありませんでした。日本の公道を走るうえで、パワーが足りないと思うシーンはなさそうです。
取りまわし・Uターンが楽
大型のモーターサイクルのなかでは、足つき性がよく、取りまわしもしやすい部類に入るW800。この扱いやすさはツーリング中のさまざまな場面でありがたく感じます。
たとえば目的地を通り過ぎてしまってUターンをしなければならない場面。車両から降りて転回するのも、跨ったままの転回も、さらにエンジンを始動したままのUターンも、どれもしやすい車種です。
ハンドルの切れ角が充分に確保されていることや、重心が高すぎないことが取り回しのよさに繋がっています。
旅先で気になる看板を見つけた際、W800なら「寄り道してみようかな」と気軽に思えます。それがたとえ狭そうな細道であったとしても「Wなら大丈夫！」と思える人はきっと多いでしょう。
上質なシート
W800の上質な雰囲気は、各部の装備ひとつひとつの質の高さが由来しているといってもいいかもしれません。空冷エンジンのフィンの造形をはじめ、メッキパーツの処理、燃料タンクの塗装、タンクに備わる立体エンブレムなど、各所の仕上げが高級感満点です。
中でも私が上質だと思ったのはシートでした。ふかふかでかつ適度な反発力があり、座った瞬間に「いいシートだな」と分かるものでした。
一日中走ってもその印象は変わらず、お尻の痛みや疲れも皆無。また前後幅が充分にあり、手前に座ったり奥側に座ったりして、リフレッシュがてら、着座位置を変更できます。
峠道でのコーナーリング時のフィット感やグリップ感も良好で、あらゆるシーンにおいて不満がありませんでした。
音と鼓動感が心地いい
W800は排気量773ccのベベルギアを備えた空冷SOHC4バルブ並列2気筒エンジンを搭載しています。大型モーターサイクルでは、すっかり希少になった空冷式。しかもベベルギアという個性的な機構を採用しています。
ベベルギアはカムチェーンの代わりに、ギアとシャフトで吸排気を行なう機構。そのためW800のエンジンにはチェーンが使われていません。
▲エンジンのヘッドとクランクケースを繋ぐベベルギア。
回転数上げた際、当然ながらカムチェーンの動作音は響かず、ピストンやギアの動きを想像させる機械音が上がります。それとともにほどよい鼓動感を発生。これが心地いいのです。
エンジンが一生懸命に仕事をしていることが、音と鼓動から伝わってきます。360度クランクを並列2気筒エンジンは、安心感のあるリズムを刻み、クラシカルなスタイリングに見事にマッチした鼓動を生みます。
▲左右2本出しのマフラーもW800の特徴です。
ちなみにW800は音響テストをもとに吸排気部品を設計したサウンドチューニングモデルの一台でもあります。カワサキがこだわり抜いた音の良さは、乗ってみて初めてしっかり分かるもの。ぜひカワサキプラザで試乗体験をしてみていただきたいです。
航続距離と燃費性能は充分
横幅があり丸みが際立つ形状の燃料タンクはW800の個性であり、チャームポイントともいえそうです。容量は15Lを確保しています。
給油口はタンク上部にあるオーソドックスなもの。キーを使って開閉できます。中が見やすく、給油しやすいタンクといえるでしょう。
W800に燃料計は備わっていません。昔ながらの仕様ですね。ただ、警告灯はあり、残量が少なくなるとメーターでも給油を促す「FUEL」表示が点滅します。
▲オドやトリップ、時計を表示する液晶部に、燃料が少なくなると「FUEL」の文字が点滅します。
▲さらに少なくなると、燃料残量警告等がオレンジ色に光ります。
今回のツーリングでは、満タンから200km走ったのち、FUELの文字が点滅していることに気づきました。さらにそこから30kmほど走ると警告灯も点灯しました。
給油時の走行距離は272.7km。給油量は12.47L。実測燃費は21.8km/Lでした。
警告灯が点灯しはじめてからはヒヤヒヤしましたが、実際にはまだ約2.5Lほど燃料は残っていたようです。
ちなみに燃費のカタログ数値は20.9km/L（WMTCモード値）。燃費は二度計測しましたが、実測値はどちらもこの数値を上まわりました。
WMTCモード値で航続距離を算出してみると、20.9km/L×燃料タンク容量15L＝313.5kmとなります。
これだけ走れれば、ツーリング先ではメーターの「FUEL」表示が点滅し始めてからガソリンスタンドを探せばいいでしょう。街乗りなど自宅周辺で営業中のガソリンスタンドの場所を把握できている場合は、警告ランプが点灯してからでも問題ないかと思います。
未舗装路も走れる
旅先で見つけた展望台、でもそこへ行くには少しだけ未舗装路を走る必要がある…
ツーリングをしていると、こういうシーンは多いものです。また、キャンプ場や宿泊施設の敷地内、食事処の駐車場など砂利道や土道を走らなくてはいけないことは意外とあるもの。
そんなときW800は、オンロードモデルでありながら比較的安心感があります。スーパースポーツマシンでは、踏み入りたくない場所もW800なら何とかなります。
リラックスした状態で運転できる乗車姿勢や、柔らかめのサスペンション、19インチのフロントタイヤのおかげで、意外なほどちょっとしたダートは走れます。
ツーリングをした際、5kmほど未舗装路の旧道を走ってみました。W800でのダート走行が楽しいかと問われると、正直楽しくはなかったのですが、「行けないことはない」くらいの気持ちで、ゆっくりと旧道の峠道を上り下りしました。
ハードな走り方をすると、エキゾーストパイプやサイレンサー、フェンダーなどの美しいメッキパーツが飛び石などで傷つくかもしれません。あくまでもエマージェンシーとして、「ちょっとした未舗装路なら走れる」と知っておくといいでしょう。
荷物が積みやすい
W800が持つ”古きよき”部分はスタイリングに限ったことではありません。新型車から失われてきている「荷掛フック」がW800には備わっています。
しかもこのW800の荷掛フックは、位置や角度も追求された、すこぶる使いやすいものです。
リアシート部分の前方と後方にフックがあるため、モーターサイクル用のシートバッグはもちろん、コード類やロープ類も掛けやすくなっています。
▲前方のフック。カギ形になっているのがGOOD！
▲後方のフック。垂直ではなく、やや外側に広がった向きにセットされています。
さらにパッセンジャー用のグラブバーが備わっており、その部分を積載時に活用することもできます。
▲グラブバーも使い方によって、積載サポートパーツとなります。
そのほかツインショックならではの付け根部分も積載ベルトなどを通すのに活用可能。
▲リアショックの付け根部分も積載ベルトを留めるのに使えます。
シートは座面が水平で面積も充分の大きさ。市販のキャンプツーリング用シートバッグがノーマル状態でしっかりと装着できます。
▲キャンプ道具が一式入る大型のシートバッグも積載できます。
※このバッグは筆者の私物です。純正アクセサリーパーツではございません。
クラシカルな見た目の割に、積載のしやすさは大型モーターサイクルでは、トップクラスといっていいでしょう。
写真映えする
シンプルな装備ながらロングセラーを続けている理由はひとえに、W800が人々を惹きつけるからといえるでしょう。
その最大の魅力は、やはりスタイリング。丸目一灯で、モーターサイクルに興味がない人も思い浮かべやすい王道のデザイン。半世紀以上前に650-W1が誕生したときから定番化しているスタイルです。
そんなW800は、日本のさまざまな風景にマッチします。たとえば歴史を感じさせる街並みや構造物。W800はすっと風景に馴染んでくれます。
そして青い空や緑の森、自然の中に入っても違和感がありません。
写真を撮るときは、車両全体を入れてもいいですし、部分を切り取るのもいいでしょう。
ひとり旅なら三脚を立てて、Wと一緒に写ればいい思い出になるはずです。
このスタイリングに惚れ込んだなら、写真や動画を撮って、“映え”をとことん狙ってみるのも面白いと思います。
ツーリングをしているとき、地元の方にたびたび声を掛けられ、歩道にいた子どもたちが手を振ってくれたこともありました。
威圧感がなく、どこにでも馴染み、誰からも好かれやすい──W800は、生まれながらの愛されモーターサイクルです。
疲れにくい
高速道路と一般道、峠道を含めて1日で430kmを走りました。自宅を朝4時過ぎに出て、帰宅したのは22時。夏場ということで、暑さからくる気だるさを感じたものの、乗車による疲れはほとんど感じませんでした。翌日はすっきりとした気分だったのが印象的です。
その大きな理由は、ポジションの自由度の高さと扱いやすさだと思います。W800はライダーに乗り方を強要しません。自分が楽だと思える姿勢を取りやすいモデルです。
また着座位置を少しずらしたり、ときおりステップの上に立ち上がったり、信号待ちではハンドルから手を離してストレッチをしたりと、騎乗時にできることが多く、常にリラックスして運転できました。
前述のとおりシートが上質であることも、疲れにくさに大きく貢献しています。
総じて安心感がある
前項とリンクしますが、両足がベタッとつくため、坂道での停車や発進の不安もありませんし、Uターンも気軽にできるので、道を間違えることへのプレッシャーもごくわずか。
乗車時間が長くなるほど、集中力を保つのは大変になりますが、安全運転を意識するだけで、運転操作における心配事がほとんどないため、楽な気持ちでツーリングを楽しめます。
車体の挙動は、スロットルもブレーキもサスペンションも分かりやすいもの。自分のなかで設定した安全マージンをしっかりと守りながら走れました。
運転することに意識の大半を奪われなければ、その分、観光をしたり、景色を眺めたりする余裕が生まれてきます。
モーターサイクルで安全に日本の各地をめぐりたい、そう考えている人にはうってつけの一台だと思います。
文：西野鉄兵／写真：関野 温
