古きよきスタイリングをいまも大切にし、ロングセラーモデルとなっているW800。ツーリング性能が高いモデルとしても知られ、旅を楽しむユーザーも多い。空冷エンジンの鼓動を味わいながら、夏の西伊豆を堪能した。
画像: Kawasaki W800 2025年モデル 総排気量:773cc エンジン形式:空冷4ストロークSOHC4バルブ並列2気筒 シート高:790mm 車両重量:226kg 発売日:2024年9月1日(日) 税込価格:124万3000円

Kawasaki
W800
2025年モデル

総排気量:773cc
エンジン形式:空冷4ストロークSOHC4バルブ並列2気筒
シート高:790mm
車両重量:226kg

発売日:2024年9月1日(日)
税込価格:124万3000円

見た目やスペックでは分からない、優れた高速巡航能力

東の空に赤みが差してきた明け方、都心から首都高に乗り、西へと向かう。連日のように最高気温35℃を超える猛暑だが、この時間ならまだ快適に走れる。メッシュジャケットを吹き抜けていく走行風が心地いい。

首都高も東名高速も軽快に流れている。W800のトップギアは5速、時速80kmでは2900回転ほど。バーチカルツインエンジンの鼓動感、キャブトンタイプのマフラーが奏でる小気味のいいリズムは、W800に乗っているということや、その意味をたしかに実感させてくれる。

W800はカワサキがカテゴライズしているサウンドチューニングモデルの一台でもある。サウンドルームでの音響テストを重ね、排気系部品を設計している。音のよさを綿密に追求しているというわけだ。

画像1: 見た目やスペックでは分からない、優れた高速巡航能力

東名高速の中井PAを過ぎると、右ルート・左ルートに道が分かれる。どちらを選んでも距離や通過時間に大差はない。ただここからは標高が上がり、道は曲線基調に変わる。そして空気は少し冷たくなる。夏場は東名高速でもっとも走行が楽しい区間といえるかもしれない。

左ルートを選び、鮎沢PAで少し休む。まだ7時前ということで、楽しみにしていた食堂もまだ開いていなかった。駐輪スペースにとめたW800の佇まいが美しい。出先で愛車のもとへと戻る際や、自宅の駐車場でカバーを取ったときなど、ふとした瞬間に“かっこいいな”と思えるモーターサイクルが好きだ。カワサキ・Wシリーズは、半世紀以上に渡って、世界中のライダーにそんな日々のちょっとした幸せを届け続けているのだろう。

画像2: 見た目やスペックでは分からない、優れた高速巡航能力

東名から新東名にスイッチすると、制限速度は公道の上限となる時速120kmになった。Wシリーズは低中速でのんびり走るのが楽しいモデルではあるが、現行のW800は高速クルージングも難なくこなす。

5速で時速100kmを超えると回転数は3500rpmほど。この速度・回転数域から心地よい鼓動感よりもなめらかさとスムーズさが際立ってくる。そのまま加速すると4000rpmで時速110km、4300rpmで時速120kmに達した。時速120kmでの巡航は、風防の類がまったくないため、上体を起こしていると風の壁を感じるが、エンジンのパワーに無理はない。レッドゾーンは7000rpmからなので、かなり余裕がある。

画像3: 見た目やスペックでは分からない、優れた高速巡航能力

沼津長泉ICで伊豆半島を南進する伊豆縦貫道に移る。ここからはペースを少し落として、再びW800の鼓動感を味わいながら、修善寺へと向かった。

昔から人気の温泉地として知られる“修善寺”は、地域の名称。その中心部に建つ歴史あるお寺は“修禅寺”。どちらも“しゅぜんじ”と読む。かつては、お寺も修善寺だったそうだが、鎌倉時代中期に「禅」の字を使うようになったという。

画像4: 見た目やスペックでは分からない、優れた高速巡航能力

修禅寺の目の前には朱色の欄干、その下には桂川が静かに流れ、独鈷の湯(とっこのゆ)という象徴的な温泉施設がある。かつては入浴することもできたが、現在は不可。それでも修禅寺温泉の歴史を伝えるスポットとして、建屋は残されている。

日帰り入浴施設や、射的、土産店などもあり、泊まりでも立ち寄りでも楽しめる、懐かしい雰囲気を持つ温泉街だ。そんな場所にW800はよく似合う。日本らしさを感じる風景とは、相性が抜群に良い。

街並みや自然の風景にすっと馴染むのは、旅好きにとって魅力なのは間違いない。ツーリングとともに写真や動画撮影を楽しみたい、という人にもイチオシだ。

画像5: 見た目やスペックでは分からない、優れた高速巡航能力

おおらかな気持ちで存分に楽しむワインディングロード

修善寺は西伊豆を楽しむライダーの玄関口でもあり、ここから伊豆半島の名道・西伊豆スカイラインが延びる。

緩やかなコーナーを右へ左へと重ねながら、標高はぐんぐん上がる。生き生きとした夏の枝葉が木陰をつくり、爽快さは増していく。W800の鼓動のリズム、アスファルトの上で揺れ続ける木々の陰、ときおり吹く少し冷たい横風、Wの太く重みのある排気音、沈んでは伸びるサスペンション。
ワインディングに入ると情報量がとたんに増えて楽しい。

画像1: おおらかな気持ちで存分に楽しむワインディングロード

排気量773cc・空冷並列2気筒のこのエンジンは、公道走行において、どんなシーンでも卒なくこなす。発進から低速走行、加速、高速走行、どこにも苦手と感じる穴はなく、かといってピーキーという言葉とも無縁。初心者からベテランライダーまで安心して扱える一台といえるだろう。

ワイヤー式のスロットルも感覚がつかみとりやすく、安心して開閉が行なえる。サスペンションはオーソドックスな正立フロントフォークに、2本ショックの組み合わせ。ホイール径は前19・後18インチ。前後17インチのクイックネスなスポーツモデルと比べると、だいぶゆったりとしていて、おおらかな気持ちで走れる。

画像2: おおらかな気持ちで存分に楽しむワインディングロード

パッと見のスタイリングからも分かるとおり、目を三角にして峠やサーキットを攻めるような車種ではない。しかし、自由度の高いポジションと分かりやすい出力特性・車体の動き方によって、多くの人が気持ちよく安全マージンをしっかりとりながら、走らせることができるはずだ。

だるま山高原を越え、戸田峠を左折すると西伊豆スカイラインのハイライトがやってくる。それまで林間の道を車両の挙動に集中して走ってきたが、パッと景色が開ける。これぞスカイラインという名称がふさわしい、尾根伝いの道へと変わる。

画像3: おおらかな気持ちで存分に楽しむワインディングロード

空気がかすむ真夏だというのに、富士山がくっきりと見えた。夏山の富士は、冬のそれとはまた異なる迫力を持つ。エネルギーに満ちた緑の高原、風になびく草木は見ているだけで活力が湧いてくる。

駿河湾と陸地の境界もくっきり見える。そういえば、さほど暑くない。高原は風が吹いていることもあり、体感温度は25℃ほどといったところか。今頃は蒸し暑くなっていそうな都心を想像し、ツーリングに来てよかったなと、なんだかお得な気分になった。

守備範囲の広さは旅先での行動力に繋がる

出発したのが朝早かったこともあり、まだお昼前。もともと予定では、これで帰るつもりだったが、少し足を延ばしてみたいと自然と思えた。向かう先は伊豆半島内陸部の名所・旧天城トンネルだ。

画像1: 守備範囲の広さは旅先での行動力に繋がる

高原を下りて、国道414号線に入った。電光掲示板に示された温度計は34℃。やはり今日も暑い日だった。南下をして天城を目指す。

旧天城トンネルは、入場料などもかからずいつでも見られる名所だが、誰にでもおすすめできる場所ではない。とくにライダーにとっては。

その理由は道にある。国道414号線から2~3km程度、ダートを走ることになるのだ。

画像2: 守備範囲の広さは旅先での行動力に繋がる

連日晴れていたこともあり路面のコンディションは悪くない。とはいえ、土の上に砂利が敷き詰められた道、スーパースポーツモデルでははっきり言って立ち入りたくない。

しかしW800だから、心配なし。肩幅より少し広いバーハンドル、上体を起こした姿勢でゆったり乗れるポジション、足をまっすぐ下ろした位置にあるステップ、これらのおかげで気張ることなくフラットダートを走れる。

場合によってはスタンディング走行もできるし、不安な場所では両足をベタベタつきながら進むこともできる。私の知るW乗りの仲間たちは、この万能性を評価し、旅バイクとして使っているような気がする。

画像3: 守備範囲の広さは旅先での行動力に繋がる

たとえば荷物を満載したキャンプツーリング。キャンプ場の敷地内やそこへ繋がる道がフラットダートなのは、ままあることだ。そんなときにW800のポジションの自由度の高さや扱いやすさが光る。

ちなみに、今回は空荷で走っているけれど、W800は現行車種の中ではメーカー問わずトップレベルで積載がしやすいモデルでもある。座面の広いフラットなリアシート、その周囲には昔ながらの使いやすい荷掛フックがいまも備わっている。加えてグラブバーも標準装備。積載もタンデムもノーマル状態で安心してこなせる。

画像4: 守備範囲の広さは旅先での行動力に繋がる

トコトコとゆったり旧道を上って、旧天城トンネルに着いた。

このトンネルの正式な名称は天城山隧道。完成したのは1905年。国の重要文化財に指定されている。現在は旧道のため、ここを通り道としてわざわざ使う人はいない。しかし、道路トンネルとしてはいまも現役で、モーターサイクルやクルマで行き来することが可能だ。

トンネル内の照明も味わい深く、タイムスリップしたかのような不思議な感覚にとらわれる。

画像5: 守備範囲の広さは旅先での行動力に繋がる

 

抜けた先の路肩にW800をとめ、一息ついた。ヒグラシの蝉時雨がトンネルに吸い込まれていく。間もなく森の中では日が沈む。ずいぶんと涼しくなってきた。

振り返れば、W800越しの旧天城トンネル。

やっぱり良く似合っていた。

画像6: 守備範囲の広さは旅先での行動力に繋がる

いろいろな場所へ出かけ、いろいろな楽しみ方をする──日本をもっと知るための旅の相棒として、これほど素晴らしい乗り物はないかもしれない。

文:西野鉄兵/写真:関野 温

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