1949年製の希少なモーターサイクル「メグロZ型」を当時の姿で再び走らせる──そんな無謀とも言えるレストアプロジェクトが、メグロの聖地・那須烏山市でついに完遂した。異業種の地元職人たちが結集し、70年の時を超えて498ccの快音を響かせるまでの3年間の軌跡と、携わったメンバーを代表して5人の熱き想いに迫る。

3年にも及ぶ、メグロZ型レストアプロジェクトがついに完遂

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物語の始まりは2022年に遡る。1949年(昭和24年)に製造された希少なモーターサイクルがカワサキに寄贈されたことから幕を開けた。70年以上も前に製造されたこのメグロZ型。

寄贈された当時は、ボディ、エンジン、マフラーなど、至る場所に70年の歴史を感じさせる姿だった。「このメグロZ型を可能な限り当時の姿で、たくさんのモーターサイクルファンにも見てもらいたい」そんな思いで始まったレストアプロジェクトが3年の歳月を経て完遂したのだ。

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このプロジェクトに携わったのは、もちろんカワサキであるが、もう一つかかすことのできないピースが「メグロの聖地」として知られる那須烏山市だ。昭和初期、目黒製作所が所在していたこともあり、メグロとは深いかかわりを持つ那須烏山市。このプロジェクトの話を持ち掛けられた際にも「自分たち以外にはできない」と即断したという。

那須烏山市のプロジェクトスタッフは実に幅広かった。市の商工会を中心とした、モーターサイクルカスタムショップ、金属加工業、各種製造業、印刷業、家具製造業など烏山市の様々な企業がそれぞれの分野でこのプロジェクトに関わってきたのだ。

レストアといっても捉え方は様々。外装、つまり見た目を美しく仕上げれば完成といったものもあれば、エンジンなどの動力系を積み替えて走行できれば完成というものもある。しかし、このプロジェクトでは「可能な限り、このZ型を当時の状態に近づけ、走行させること」という、無謀にも思える挑戦を強いたのだ。

その挑戦が困難に困難を重ねた大きな要素が、70年という年月だ。エンジンやマフラー、塗装、シートなど当時そのものと現代のものは全く違う。

そもそも、寄贈されたZ型から情報を得ることは容易ではないのだ。そんな状況下でも、少ないながらに得たヒントをもとに、化学分析や成分解析などを用い当時の情報を得る。そして、それらを再現する技術を有する人がいるとわかると、指導してもらうために遠方まで足を運ぶ。

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特にマフラーの復元には相当の労力がかかったという。最新の計測技術と工作技術を用いながら、仕上げには手曲げを施しミリ単位で当時のマフラーを再現することに成功。また、エンジンを分解し組み立てる際には、資料をもとに不足していた当時のパーツを抽出し、新たに製作。また、タンクに施されたロゴも色を分析し、幾度となく試作を繰り返したのだそう。

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「当時と変わらぬ姿で、その音・その走りを復刻させる」そのテーマにプロジェクトの面々が魂を込めて仕上げたメグロZ型が披露される日がいよいよやってきた。

2025年11月2日(日)第5回メグロ・キャノンボール那須烏山に集まった来場者からの注目が集まる中、那須烏山市の多くの技術者によって、現代に蘇ったメグロZ型の美しくもエモーショナルな姿が披露された。これが1949年当時、多くのモーターサイクルファンが憧れたマシンの姿なのだと、プロジェクトの面々は胸を張ってそう宣言するのだ。

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そして、いよいよエンジン点火の時が来た。メグロZ型のレストアプロジェクトは、エンジンがかかりその音を響かせることで完遂するのだ。

キックスタートを数回試みるが、上手くかからない。少し時間をおいて再度キック。

まるで吠えるような、お腹の底に響く498ccシングルの快音が那須烏山の空に轟く。圧倒的な迫力と存在感が、すべての来場者を飲み込む。

そして、拍手が巻き起こった。こうして、プロジェクトは一つの幕を下ろした。

このメグロZ型は、那須烏山市の山あげ会館内に設けられたメグロミュージアムに展示されている。この3年に及ぶ物語の完結をぜひその目で見てもらいたい。

画像: メグロミュージアム 栃木県那須烏山市金井2丁目5−26 山あげ会館内 営業時間:9時~16時 定休日:毎週火曜日(祝日の場合は翌日)・年末年始 www.city.nasukarasuyama.lg.jp

メグロミュージアム
栃木県那須烏山市金井2丁目5−26 山あげ会館内
営業時間:9時~16時
定休日:毎週火曜日(祝日の場合は翌日)・年末年始

www.city.nasukarasuyama.lg.jp

【インタビュー】メグロの聖地とその歴史を紡ぐストーリー

メグロを通した街おこしで様々な繋がりが生まれ、全国から注目を集める那須烏山市。そのつながりをつくり出している5人の方にインタビューしてきました。

那須烏山市長 川俣 純子さん

画像1: 那須烏山市長 川俣 純子さん

人と人をつなげるメグロは、魅力ある未来へとつないでいく

私は那須烏山市で生まれ育ち、獣医だった祖父から受け継いだ2台のメグロを持っているのですが、目黒製作所についてはほとんど記憶にはありません。ただ、そこで働いていた方々が培った技術を金属加工などの分野に活かそうと、独自に工作所を開き、2代、3代といまだに続いています。つまり、技術は継承され、今も息づいているのです。

それは昨年復元されたメグロZ号のレストアプロジェクトでも証明されました。地元の様々な企業が力を貸してくださったのです。金属加工だけでなく、プラスチック製品をつくっている企業にもご協力いただきました。さらに、シート下のクッションに和紙が使われていたことがわかったので、それなら伝統工芸品でもある烏山和紙で再現し、シートを張るのは家具職人さんでした。そうした異業種の方々が一丸となり、一つのチームになって取り組んだ成果として伝説の名車は復活したのです。

画像2: 那須烏山市長 川俣 純子さん

このレストアプロジェクトを通して様々な分野の人たちのつながりが生まれたことは、市としても大きなメリットがありました。というのは隣の工場が何を作っているのかは意外と知らないもので、得意分野までわかることで交流が生まれ、これからの地域活性化につながっていくことでしょう。

しかも、うれしかったのはレストアチームには若い世代も多く、那須烏山市の未来に向けた新しい魅力の一つになるのではないでしょうか。実は、那須烏山市では「モーターサイクルを直し、復元します」という技術力をふるさと納税の返礼品に設定しているんです。そうすることで、那須烏山市が「メグロの聖地」から「モーターサイクルの聖地」として発展していくという楽しい未来図も描けると思うのです。

これからもメグロと共生することで、人とのつながり、街とのつながり、そして未来とのつながりが生まれていくと期待しています。


メグロZ型レストアプロジェクトリーダー 澤村 宜樹さん

画像1: メグロZ型レストアプロジェクトリーダー 澤村 宜樹さん

昔も今もモノづくりの誇りが、エンジンの音になって蘇る

普段は整備士としてカスタムを手掛けることが多く、1949年製のメグロZ型の存在を知り、僕たちのこの街で復元してみたいと商工会に掛け合ったのが始まりでした。

部品の一つひとつを科学分析しましたが驚くばかり。例えばシートの下に和紙を使っていたなんて今では考えられません。でもなぜ和紙を使ったのか。当時の技術者たちの気持ちにまで想いを馳せながら再現していきました。それぞれの部品のレストアをお願いした協力会社さんも、先人たちに負けないようプライドをかけて作ってきます。マフラーなんて厚さ60mmの鉄の塊から削り出し、最終的には当時の厚さ0.8mm代を達成。エキゾーストパイプも厚さ1.2mmを曲げるのに専用の機械がなく、当時と同じように手曲げ職人を全国に探し求め、実際に習いにうかがって手曲げで作り上げました。

部品を丹念に調べてよりいいものを作ろうとすればするほど先人たちの想いが伝わってくるようでした。今の人がちょっと忘れてしまった“モノづくり日本の誇り”が詰まっているのです。それが現代の技術で蘇ろうとしているのですから展示だけで終わらすのではなく、エンジンも動かしてみようということになり、俄然ヤル気にスパートがかかりました。

画像2: メグロZ型レストアプロジェクトリーダー 澤村 宜樹さん

ところがエンジンを分解してみると、これは本当に動いていたのかと疑うような状態。残された時間がないので、いろんな方々の力を結集させるしかありません。実はお披露目の当日の朝に仕上がったのです。エンジンがかかる。76年前の音。とても力強く、みんなの力で復活した音です。次世代にもつなげたい音だと思いました。


メグロ・キャノンボール那須烏山実行委員長 山田 佳之さん

画像1: メグロ・キャノンボール那須烏山実行委員長 山田 佳之さん

一波動けば万波生ず。全ては「メグロで街おこし」につなげるため

地元で店舗経営する一人として「メグロを使って何かできないだろうか」と以前からずっと考えていました。そこへメグロK3発売に向けて那須烏山へ撮影隊が来られ、このチャンスを逃すまいと有志に声をかけ、商工会や観光協会、市にもご協力いただき2021年1月に第1回メグロ・キャノンポール那須烏山を開催することができました。

第1回目は、メグロが延べ50台以上、その他は300台近く、見学者も含めると1000人以上の人が来てくださり大盛況。それがきっかけでカワサキモータースさんとの交流も始まって毎年盛り上がりを見
せ、今年の11月1日開催で6回目となります。

あくまでも街おこしが目的なので、普通のファンミーティングとは雰囲気が少し違うとよく言われます。若い女性や家族連れをはじめ、遠方からのリピーターが多いのです。

画像2: メグロ・キャノンボール那須烏山実行委員長 山田 佳之さん

それは、“つなぐ”というテーマのもと、参加者同士のつながり、参加者と市民とのつながりを大切にし、仲間と一緒に楽しむように取り組んできた手作り感があるからだと思います。

そうしたつながりの輪が広がり、今では週末ともなれば多くの観光客がメグロ看板の前で写真を撮りに来られます。ある20代の女性は宮崎から来られたと。もはや全国区になったともいえ、街おこしにつながっていると実感しています。あとはいかに持続可能なコンテンツツーリズムとして成長させるか。それには事故がなく安全を徹底しながら、来ていただいた一人ひとりに楽しんでもらうことを心がけていきたいです。


那須烏山商工会 工学部会長 渡辺 大明さん

画像1: 那須烏山商工会 工学部会長 渡辺 大明さん

レストアを通してモノづくりの楽しさを味わう

当初は「レストア」というあまり馴染みのない言葉に、どのように関わっていけばいいのか少し戸惑いもありました。ですが、昭和の工業製品を「復元する」という意味であれば、商工会の工業部会
にも優れた技術を持つ企業や技術者がいますし、そもそもモノづくりが好きですから集まってくるはず。そうなればきっとできると思いました。すると年々参加企業は増え、盛り上がっていくのです。みんな、ワクワクしていました。

とはいえ70年以上も前の製品をレストアするのですから、一筋縄ではいきません。私は印刷を専門としているのでメグロZ号のタンクマークの再現に取り組みましたが試行錯誤の連続でした。特に色の再現は苦心しましたね。1950年代以降なら七宝焼で作られて現存しているので色がわかるのですが、このメグロZ号は多色印刷シートからの転写。経年劣化して色あせていますからオリジナルの色がわかりません。想像する以外に方法がないのです。少しずつ色を変えて、関係者の皆さんが記憶する色に近づけ、納得できるまで、どれほど刷ったことでしょう。

画像2: 那須烏山商工会 工学部会長 渡辺 大明さん

でも楽しいので苦労が苦労とは思えませんでした。ハードルが高いほど乗り越えた時の喜びは大きいものです。メグロZ号のレストアを通して、参加した全員がモノづくりの楽しさをあらためて感じたのではないでしょうか。


(一社)那須烏山市観光協会 会長 島崎 健一さん

画像1: (一社)那須烏山市観光協会 会長 島崎 健一さん

メグロという観光資源を活かし、市内全域を巡る提案をしていきたい

観光資源を活用し、いかに地域を活性化させるかという点で、メグロ・キャノンボール那須烏山やレストアプロジェクトの成功により、那須烏山市は「メグロ」という素晴らしい資源をいただいて
いるなと感じています。ただ、イベントでせっかく来ていただいても終われば帰るだけでは単なる点ができただけで、他の点と結ぶ仕掛けや提案が必要です。

那須烏山市には、ユネスコ無形文化遺産の烏山の山あげ行事、日本一の遡上率と言われている清流・那珂川の鮎、どうくつ酒蔵、龍門の滝など、魅力がたくさんあります。これらも共に楽しんでもら
うことで点と点がつながって線となり、遠くからやって来てより長く滞在していただけることになると思うのです。

画像2: (一社)那須烏山市観光協会 会長 島崎 健一さん

もちろん、それには地元の様々な企業・団体、市民を巻き込んで、ライダーや観光客をリサーチし、市内回遊の魅力情報を発信していかなければなりません。ツーリング情報もその一つでしょう。例
えば隣町にモーターサイクル好きの間で有名な安住神社があるので、そこをお参りしていただいて、那須烏山へ至るのに向田街道や県道10号など気持ちのいい快走路がありますので、ぜひそこを走っていらしてください。

途中、龍門の滝に寄るのもいいでしょうし、下野大橋や烏山大橋の上から那珂川の美しい景観を見ながら渡るのも気持ちいいです。信号の少ない、田園風景や山並みを眺めながら走りたいのなら市内全域がおすすめです!

まとめ:Kawasaki Good Times Journal編集部
※本記事は2026年6月25日発刊『KAZE会報誌 vol.306』に掲載された記事を一部編集して公開しています。

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