ライダー&監督の簡単プロフィール

岩戸亮介(いわと りょうすけ)選手(左)/1997年8月15日生まれ、福岡県出身。チームが発足した2022年より全日本ロードレス選手権・ST1000クラス、および鈴鹿8時間耐久ロードレース・SSTクラスに参戦。2024年の全日本選手権ST1000でランキング2位を獲得。
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彌榮 郡(みえぐん)選手(中央)/2006年4月30日生まれ、鹿児島県出身。2024年よりKawasaki Plaza Racing Teamから全日本ロードレース選手権・ST1000クラス、鈴鹿8時間耐久ロードレース・SSTクラスに参戦。名前の由来はバイク漫画『バリバリ伝説』の主人公・巨摩郡より。
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西嶋 修(にしじまおさむ)監督(右)/1970年7月24日生まれ、福岡県出身。全日本RR SBK参戦経験をもち、2022年にKawasaki Plaza Racing Teamの監督に就任。チーム発足1年目にして鈴鹿8時間耐久ロードレース・SSTクラスにてチームを優勝に導いた。
チームの絆は「兄弟」以上? 監督の意外な“育成術”
──はじめに、チームの雰囲気をお伺いしたいと思います。西嶋監督からみて、選手のおふたりに会ったときの印象はいかがでしたか?
西嶋監督: 岩戸に関しては昔から知っていて、いつも、真剣にバイクに乗っているな、と。100%の力でレースに取り組んでくれるので、いずれ日本のトップ、そして世界に行く子だろうな、と思っていました。彌榮に関しては、出会った頃はまだ高校生で……「意外とまだ子供だなぁ」という印象が(笑)。心を開いてもらうのに時間がかかるかもな? と思っていました。
そう語る監督ですが、ライダーのおふたりからは「監督は見た目はちょっとコワモテだけど、誰よりも優しい!」とのタレコミが。続いて、選手のおふたりにも伺います。


──おふたりからみて、西嶋監督はどんな方ですか?
岩戸選手: 本当に優しいんです。甘やかすとかではなく、人としての優しさがあるというか。先日、イベント会場で僕がゴミを拾っていたら、それだけで褒めてくれました(笑)。
彌榮選手: あの……1日のはじまりには「今日も頑張ろう」って言ってもらえて、ダメだった日でも“次は頑張ろう”と思える言葉をかけてくださるんです。選手として活動し始めて1年目の時は転倒なんかも多かったんですが、そんな時は“なぜできなかったのか”を僕に真剣に考えさせてくれる言葉をくれました。それが、監督の心からの言葉だって伝わるから、落ち込まずに頑張らなきゃいけないなって思えるんです。
これに対し西嶋監督は、「基本はすぐ褒める。できればすぐ褒める」と笑顔を見せました。
しかし、ただ優しいだけではありません。昨年の全日本ロードレースの第4戦 もてぎ大会で、レース中、ふたりが接触・転倒してしまった時だけは、さすがに「ガツン」と雷が落ちたといいます。
岩戸選手: 基本的に、「オラァ!」なんて怒鳴ったりはされませんが(笑)、その当時は僕も精神的にコントロールができていない部分があったんです。でもこう、むきになってしまっている僕がちゃんと落ち着いて、自分を取り戻せるような、重みのある言葉をかけてくれました。そこそこ長いお付き合いの中で、あの時が一番ガツンと言ってくれた時だったと思います。
西嶋監督: 心の中で「何しとんねん!」と思うことはありますよ(笑)。でも、勝負をかけるライダーの気持ちは理解できるんです。とはいえチームとしては、そこは大人になってくれよ、と。冷静になっていたら、結果は違ったな、とね。
厳しさと優しさ、そして信頼。この絶妙なバランスが、今のKawasaki Plaza Racing Teamの絆を深めているのかもしれません。
「レーサー」って普段は何してるの?
サーキットでは時速200km以上でバトルを繰り広げるおふたりですが、ヘルメットを被っていないとき、一体どんな生活を送っているのでしょうか?
──レースがない日って、どんなことをされているんですか?
岩戸選手:はい。あの、寝てます……なんてことは全然なくて!(笑)朝は遅くとも6時半には起きて、2歳の息子のご飯を作ったり、着替えをさせたりします。奥さんが仕事へ行くのにあわせて息子を車に乗せてから、僕自身がご飯を食べてシャワーを浴びて、洗濯や家事なんかを一通り終わらせたらトレーニングに行きます。ふたりが帰ってくる前には家に戻って、犬の散歩や家事、またご飯を作って息子と一緒にお風呂に入って……寝るのは日付を回ったくらいかな? まあそんな感じで、本当に普通の生活です。朝早くから出かけてしまうときも多くて家に居られる時間がどうしても少ないので、オフの日はライダーではなく“パパ”として、できる限り家のことをするようにしています。
ストイックなアスリートの顔とは裏腹に、家庭では“パパ”として、家事をこなし息子さんや奥様との時間を大切にする岩戸選手。一方、若武者・彌榮選手はというと……?
彌榮選手:僕はスポンサー企業でエンジニアとして働きながら、レース活動をしています。朝は、えっと、7時半くらいに起きて、ご飯を食べて……8時20分くらいに出社しています。朝礼を受けてから仕事が始まるんですけど、まずはお客さんに電話して、設計の数字が間違っていないかとか色々確認したら、CADで設計してプログラムを組んで、製品を加工していって……まあ、そんなことをして、早いときは17時半くらいには勤務を終えて帰ります。遅いときは22時くらいです。
レースに励む一方、普段はいち会社員として働く19歳の彼。帰宅後はどんなことをされているんでしょうか。
彌榮選手:家では基本的に愛車を触ってます。家の中にNinja 250やKXが置いてあるので、それに跨ったりして……
──家の中で(愛車に)跨るんですか?

▲彌榮選手のお部屋。 ※ご本人提供
彌榮選手: はい、好きなので(笑)。跨って「あー早く乗りたいな」って思ったり。オイル交換とか、簡単な整備をしたりもします。ちょっと外に出てトレーニングしたりすることもあるし……あ、あとは犬を2匹飼ってるので、一緒に遊んで癒やされてます。ミニチュアダックスと、ティーカッププードル。こんくらいのサイズで可愛いくて……一緒に寝たりとか!

▲彌榮選手の愛犬たち。※ご本人提供
彌榮選手、実は意外と可愛いもの好き(?)なご様子。たまにお散歩にも出かけるのだそうですよ。
ちなみに西嶋監督はオフシーズン中、動画配信サービスで韓国ドラマを観るのにハマっていたのだそう。おすすめは『血も涙もなく~ディア・マイ・シスター~』で、複雑な人間ドラマが堪らないそう。休日ゆっくり過ごしたい日や、涙を流したい時なんかにぜひご覧ください。
話を戻して、ここからは選手のおふたりが行っているという「トレーニング」にフォーカスしてお話を伺いましょう。
──シーズンオフのこの時期、どんなトレーニングをしているんでしょうか?
彌榮選手: 僕はオフの間、とにかくバイクに乗る回数を増やしました。ダートトラックっていって、モトクロスタイヤじゃなくてスリックタイヤに溝を掘ったみたいな形のタイヤで、学校の校庭みたいなところを走るんです。で、今年はさらにモトクロスも取り入れようと思って、サスペンションなんかもゲットしました。
オンロードでのレース活動を行っている選手が、オフロードをトレーニングに取り入れるのは意外です。あえてオフロードのトレーニングを増やした理由を伺うと……?
彌榮選手:土の上だとタイヤが滑ったり、轍(わだち)ができたり、コンディションがすぐ変わるじゃないですか。それにどう対応するか、いかに前に進ませるかっていう訓練をするために取り入れようと思って。去年は雨のレースで苦戦したので、その対策として、ですかね。何が上手くなったか、言葉にするのは難しいんですけど、カートコースでの練習ではベストタイムは更新し続けているので、オフロードで学んだ感覚を体は覚えているはずです。
ちなみに筋トレやランニングといったトレーニングはされるんですか? と伺ったところ、「あ、僕はランニングはあんまり……」「その分、体幹トレーニングを徹底してます!」と力強く語ってくれました。
続いて、岩戸選手にもオフシーズンのトレーニング内容を伺います。
岩戸選手: 僕は今、ランニングにハマっていて、実は地元のフルマラソンの大会に出たりなんかしています。昨日も30km走ったりしていました。あとはジムで身体を鍛えたり、自転車に乗ったり。最近ではマシンピラティスも取り入れているんです。メニューとかは本当にその日の気分で決めています。僕、元々肌がすごい真っ白なんで、実はちょっとこう、日焼けしたくて(笑)。日が照ってたらあえて自転車に長く乗って日焼けしようかな、とか、雨降ってるから今日はジムにしようかなとか。それこそプラザアパレルの撮影があるってときは、ジムで鍛えとこうとか!(笑)
トレーニングメニューは気分で決めていらっしゃるとはいえ、その内容はかなりストイックな模様。「そもそも動いていないと僕、人間性を失ってしまうというか……」なんて一言もありました。心身を整える意味でも、運動は欠かせないものになっているそうです。

▲地元のマラソン大会を無事完走した岩戸選手。※ご本人提供
──ちなみに岩戸選手、オフシーズンの取り組みで昨年と変わったことってありますか?
岩戸選手: あ、メニュー自体をさほど変えたりはしてないんですけど……でも、今年一番の取り組みはしっかり「休息」を取ることですね。今までは“止まったら死ぬマグロ”みたいに動き続けて体調を崩すこともあったので(笑)。しっかり休むことで、オンとオフの切り替えができるようになりました。
常にレースのことを考え、動いていないと気が済まないタイプだという岩戸選手。それは、自身の幼少期、モーターサイクルに乗り始めたころからだと言います。
岩戸選手:バイクに乗り始めた当時、僕はまだ子どもで、周りが全員大人だったんです。だから僕は知識も経験も浅くて、でも、その大人たちの輪に入って同レベルで会話がしたかったんですよね。ですから「自分だけ知らない」っていう状態が(話に入れないので)すごく怖くて、そのころから、気になることは物凄く突き詰めるようになりました。結果、不安に思ったことを一つ一つ解決して、頭の中で整理するサイクルができあがったんです。そうすると、意識せずともベストな選択を、頭と身体が勝手にしてくれるって実感していて、そのおかげで自分に自信を持てるんです。裏を返せば、何かしら引っ掛かることがあると、解決するまですごく不安に思ってしまうんで、その結果「休む」ことを忘れてしまうという……(笑) でも、今回は意識的に「休息」を取り入れるようにしたことで、“頭と身体を整理する時間”が取れました。休むこともトレーニングの一部だと気づけたのが、一番の進化かもしれません。

▲幼い時にポケバイに乗る岩戸選手の様子。※ご本人提供
岩戸選手が彌榮選手と同じくらいの歳のとき、「“お前ちょっとおじさんすぎる”と言われたのが嬉しかった」なんてエピソードも。「凝り性で、知らないことがあるのが不安だから」と、徹底的に調べる岩戸選手の積み重ねが、彼の確固たる自信に繋がっているのでしょう。
続いて西嶋監督に、オフシーズンの彼らの走りを見て感じたことを伺いました。
──昨シーズンと比べて、岩戸選手と彌榮選手の走りはどうですか?
西嶋監督:岩戸は去年のオフシーズンと比べて、かなり走り込みなんかができてるんですよね。実際に一緒にトレーニングしてる上でもすごく調子がいいなっていうのは感じられますし。走りに気迫が感じられます。多分本人的にも、まあ走りに関しては自信を持てるんじゃないかなっていう気はしていますね。かなり期待できます。彌榮はね、急成長しているんですよ。ただやっぱりサーキットによってまだ波がある。だからこう、苦手なサーキット、それこそ鈴鹿とかはコースレイアウトからして難しいですから、もう少し、バイクのことを理解できたらもっとよくなると思います。ただ、岩戸にね、うまく(乗り方を)質問したりする姿も見受けられて、彼もなかなか頑張っていますよ。

▲岩戸亮介選手

▲彌榮郡選手
気持ちを切り替え、勢いある走りができているという岩戸選手と、その背中を見て急成長を遂げている彌榮選手。一番近くでふたりを見ている西嶋監督が太鼓判を押すのですから、ますます開幕戦が楽しみです。
岩戸選手と彌榮選手のこだわりを教えて!
続けてレースの現場で、おふたりのこだわりについて伺いました。
──レースの前に必ず行うことやこだわりなどはありますか?
岩戸選手:ん~こだわりとかってあんまりないんですけど……笑顔でいるよう、常に意識はしていますね。やっぱり本当に好きなことやらせていただいていると思うので、まあ楽しんで、レースもしたいなと思っていて……
と、そこで彌榮選手が挙手。「僕、見ていて亮介君(岩戸選手)のこだわり、わかります」と一言。
彌榮選手:いつも僕が(岩戸選手を)見てて思うのは、ピットの中で、すっごいウロウロしているなって。シールドをこう、綺麗かな~とか、グローブがどこか破けてないかな、とか、ブーツにタイヤカスがついていないかな、とかチェーンの油が飛んでいないかな、とかみて、汚れていたら拭いてたり。そういう細かいところを、すごく良く見ている気がします。
岩戸選手: あ、確かに。もはやルーティーンと化していて、全然思い浮かばなかった……こだわっていないと言いつつ、実はめちゃくちゃこだわってました(笑)。

岩戸選手:例えば、ピットの自分の椅子の横に棚があるんですけど、ヘルメット、グローブ、ブーツの置き方は決まっています。基本、人には触られたくない。自分で全部整えます。ヘルメットもまあ何個か持ってるので、「今このヘルメットが調子いいな」って思えば、それを決勝に残しておいて、フリー走行では違うものを使ったりとか。
掘れば掘るほど出てくる岩戸選手のこだわり。彌榮選手、ナイスですね! さらにこだわり解説は続きます。
岩戸選手:それにこれ、言っちゃっていいのかな?(笑)バイク乗りって、基本みんなナルシストなんですよ、基本。「俺の走ってる姿、かっこいいだろ?」って絶対に思ってる。だから、装備の色の組み合わせもグン(彌榮選手)に相談したりします。「このブーツにこのグローブは合ってないよ」とか。僕たちも根本にあるのは、「バイクが好きだ」っていう気持ちで、それプラス「サーキットが好き」「レースが好き」……というふうな感じなんです。だから僕は、プライベートでバイクに乗る時も、トレーニングでモトクロスに乗る時も、全日本ロードのレースで活動する時だって常に皆さんに見られているってことを意識しています。「かっこよくありたい」っていうのは変わらないですね。
一方、チームメイトの彌榮郡選手は対照的です。かつてはルーティンを持っていた彼が、それを捨てた理由には、海外レースでの経験がありました。
彌榮選手: 昔はガチガチに決めてたんです。でも、海外に行くと日本と同じ環境なんてない。例えば「朝コンビニに行く」をルーティンにしてたら、コンビニがない国に行った瞬間に終わるじゃないですか(笑)。できないことで不安になるくらいなら、最初から決めない。「起きたことを受け入れる」っていうのが、今の僕のルーティンです。

この達観したメンタリティには、岩戸選手も舌を巻きます。
岩戸選手:もうほんと、グン(彌榮選手)を見てると「こいつ、どうやって生きてるんだろう?」って思う時があります(笑)。でも、それが彼の強さ。僕にはできないスタイルですね。
コラム:実は深い意味がある? ふたりのナンバーの秘密
レース中、マシンを識別するために欠かせないのが「ゼッケンナンバー」。
2026年の全日本ロードレース選手権では、これまでの指定ゼッケン制ではなく、ライダーの好きな数字をゼッケン番号にできる「希望ゼッケン制」に変更されたため、今シーズンは岩戸選手が「64」番、彌榮選手が「43」番と、お馴染みのナンバーを背負っての参戦となります。
とはいえ、なぜ岩戸選手が「64」で彌榮選手が「43」を希望したの? と気になる方も多いハズ。せっかくの機会ですので、おふたりにその由来を伺いました。

岩戸亮介選手の「64」番
「奥さんとのソウルナンバーを足して……」というロマンチックな理由もありつつ、一番の理由はなんとジョナサン・レイ選手。
カワサキの絶対王者として君臨し、ゼッケン「65」をつけていたレイ選手を、岩戸選手は師匠のように慕っているそうです。「いつか師匠を超えたい」という想いを込め、65の一つ前である「64」を選んだのだとか。ちなみに「4」は子供の頃からのラッキーナンバーでもあるのだそう。

彌榮郡選手の「43」番
こちらは家族愛溢れるエピソード。「僕の誕生日が4月30日で、母の誕生日が4月3日なんです。その数字から“3”と“4”を取って……」と彌榮選手。レースを始めた当初、お父様が決めてくれた番号を、今も大切に使っているそうです。
ちなみに、岩戸選手のお母様も、お誕生日が4月3日なのだそう。もしかするとレーサーの母はみんな4月3日生まれ……?
ファンの皆さん、レース応援の際はぜひ、グリーンの旗とともに彼らの番号も掲げてくださいね!
談:西嶋 修、岩戸亮介、彌榮 郡/写真:岩戸亮介、彌榮 郡、Kawasaki/まとめ:Kawasaki Good Times編集部
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